第7章 運命の番(過去編)2
Ωの運転手からメモを受け取り、ペンを片手にサラサラと番号を書いて行く。お気軽にご連絡下さいという文字を添えてだ。どうぞと渡すと身体が小刻みに震えて嬉しそうに笑った。ぶわっとΩの匂いが身体を包む、少しムラムラしてしまった私はなんとか理性を効かせて車へと乗り込んだ。当てられるように通行人や彼の両親、運転手も真っ赤である。
「それじゃあまた」
「必ず連絡する…春枝。俺…おれ…」
「ゆっくりで構いません…落ち着いて話して下さい」
「っっ!お、俺の…番になってはくれないだろうか」
「へっ…?」
ヒートだから。そうヒートだから正常な判断が出来なくてそう言ったに違いないと勝手に決定付ける。それにしてもこんなにも真っ直ぐに“番になって欲しい”と伝えられたのは生まれて初めての出来事だった。そもそも私はまだ中学生で、こういう場合は世間的にはアウトだろう。しかし普段通りの私ならば“番は無理だ”と“嫌だ、困る”と拒否の言葉が出て来なかったのだ。情がわいた…というわけではない。本能が叫んでいた。見て見ぬふりは出来なかった。あの公園でうずくまる金色が目に付いた時…私は既に彼。降谷零に惹かれていたのだろう。確信に変わったのは澄んだ水色の瞳が私を捕らえた時だった。
「番候補で…お願いします。私はまだ中学生ですから…」
「!す、すまない…そうだな。焦る気持ちを抑えられなかった」
「いいえ…嬉しかったですから。それでは…」
「本当にありがとう…またな」
「はい、また…」
後部座席から軽く頭を下げて微笑む、運転手に出してと目を向ければ軽く頷いてドアガラスが閉まった。そして私は何限目か分からないが、完全に遅刻した学校へまた戻っていった。
ーーー。
私は零さんと何度か連絡をとり、会って楽しくてこのまま当たり前にずっと続いていくのだろうとも思っていた、けれど彼は警察官になることが夢で寮に住まないといけないから簡単に会えなくなると伝えられた。それでも警察学校に入ってもまた会えた…しかしそれからぱったりと連絡がとだえてしまったのだ。彼に出会えるのはまた数年後のことである。
ーーー。
ずっと探していたお兄ちゃん…私の運命の番。そして私の命の恩人だ…あの人が幸せになるのなら私はなんだってするし絶対に助けたいとも思う。だから私は大型バイクに跨り、エンジン音を鳴らして階段を勢い良く駆け上がった。