第21章 運命の番(過去編)0
春枝の元気そうな声を聞き、私は申し訳ないと表情を曇らせて微笑むと部屋を出て行った。私はあの小さく健気な可愛い子になにを残してあげられるだろうか…
ーーー。
三日経った夕方頃、会議終わりに使用人から連絡が入った。血塗れになった青少年が目を覚ましたらしい。春枝が今付き添っているから、仕事が終わり次第に帰って来れるなら帰って来て欲しいとの伝言も貰う。溜まりに溜まった書類を見下ろして、悩ますように、眉間を手の指で押さえシワを伸ばす。しばしばする目を瞬きさせて「なるべく早めに帰る」と伝え連絡を切った。
「ふぅ…何事もなければいいが」
あの子は自分自身のカリスマ性を理解していないから、優しく甘やかされたら強いα性でも絆されてしまうというのに…まぁ。そこはきっと私に似たんだろう、母さんは本当に美人だから、私のように似なくて良かったと思う。
「さてと、早く終わらせて家に帰るとするかな」
社長室へ置かれた書類を見下ろしながら、ソファーへと腰掛けてパソコンの電源を入れた。
ーーー。
随分遅くになってしまい家へと帰って来れた時には夜中の0時を過ぎてしまっていた。春枝はきっともう寝てしまっているだろうと考え、彼女の寝室へ少しばかり顔を覗かせて直ぐに出て行く。そのまま階段を使い奥の客室へと向かう。青少年は寝ているだろうか、食べられそうなお腹に優しい夜食を用意して彼の元へと行く。
「私に体術で挑むのは命知らずの行為だよ、青少年くん?」
私の首を腕の力で締め上げるつもりだったのか、背後から近付く気配や匂いで気付いておりクスリと小さく笑って声を掛けた。ゆったりとした動作で後ろを振り返ると、狼狽えるように私から距離を測る青少年がいて睨む。
「なぜ、俺がここにいると分かった」
「私は人より鼻が良くてね…温厚で穏便に済ませたい主義だ。余り手荒な真似はしたくはない…折角治療を施したというのに、また蜂の巣にされるのは君も嫌だろう?」
私の部下は優秀だ。彼自身は私に言われるまで気付いていなかっただろうが…私や私の愛する家族を守る為にそこら中に見張りがいたりする。なにより私自身も護身用に拳銃を所持している…が発砲するつもりはない。
「しかし驚いたな…経った三日で目が覚めたばかりだというのにもう動けるのかい?先程の身の子なしといい並大抵の人間じゃないね」