第20章 運命の番(過去編)3.5
「三人とも暗いぞー…折角春枝の家に遊びに来たんだからさ」
「なんで緑川は驚いてねぇんだよ」
「いや、だって俺全部気付いてたし…」
はっ?そう春枝も含めての当事者である緑川以外の全員がぽかんと口を開けて緑川を見ていた。愛おしげに春枝を見下ろして、ぱちぱちと瞬きし首を傾げた彼女に苦笑いを浮かべていた。
「俺は春枝に別の番がいることに気付いてたから。後はそうだな…昔からゼロが春枝のことで俺達を近付かせないように試行錯誤を繰り返していたし、ゼロの女だと思っていたから余り驚かなかったんだ」
「景光さんってかなり鼻いい?」
「あぁー…確かにそうかも。助けに来てくれた時もなんとなく春枝だと気付いてたし、助けられた時とかゼロ以外の松田や萩原の匂いが春枝から匂ってたからそうじゃないかと思ってたんだ…春枝自身が警察官じゃないと、一般人がそうそう人の匂いなんて移らないしさ」
「……景光さんも相当刑事に向いてますよ」
「ははっ…そう言われると照れるな」
目を細めた緑川は甘い表情で春枝を見下ろしている。なんだ…この緩い会話は。なによりΩで他の人間の匂いが分かるなんてほぼほぼ稀なことだった。春枝は優秀であるが故に他人の匂いを感じ取りやすいらしいが、Ωは聞いたことがあっても見たことはなかったのだ。まさかこんな近くにいたとは思わなかったが…だったらそう言ってくれたら良かったのにと眉間にシワを寄せる。長年の付き合いであった降谷も知らなかった情報だったのか「なんでそれを早く言わなかった」と睨んでいた。しかし緑川と春枝は見つめ合うよう見ると、同時にこちらを向き口を開く。
「「だって聞いて来なかったし」」
ねぇー?と二人は可笑しそうに笑いつつあざとく首を傾げていた。仲が良さげでなによりだ、だがそれがとても憎らしく思えてしまい睨む。がしかし二人は珈琲豆の入った瓶をかなり近い距離感で見ていて、それに対して春枝にとって緑川はまた別に特別なんだろうなと羨ましくも思えた。
ーーー。
緑川が用意した珈琲を口付ける、美味い。酸味が少なくほろ苦いそしてなによりコクがある…まさか緑川にこんな珈琲を作る特技があるとは知らなかった。それより彼女の過去が知りたい俺たちに春枝は苦笑いする。