第20章 運命の番(過去編)3.5
彼女は文字をさらさらと書いて行く。そして「今ココ」とペンで円を描いた。俺たちはそれを見下ろして「………」と静かになり、テーブルを叩きながら「「「納得出来るか!」」」と怒鳴った。春枝はといえば不貞腐れた顔をしてから、あっけらかんといった顔と口調で肩を竦めている。
「いや、ここまで分かりやすく説明して書いたんですから納得して下さいよ。嘘偽りはありませんし…真実はいつも一つです。考えるな、感じろ」
彼女はうんうんと頷いて、緑川がいれた珈琲に口付ける。ふわりと笑みを零している姿に全員が見蕩れてしまったのは仕方ないだろう。
その時、春枝の携帯から連絡が入った為一旦席を外して寝室へとこもってしまった。大きなため息を漏らすのは誰でなく降谷であり、頭痛がするのか頭を押さえている。
「何の為に春枝を会わさず予防線を張っていたのかが分からなくなるな…」
「いやいや、恋人がいるなら紹介してくれよ…」
「言ったらお前ら、絶対に会いたくなって尾行するだろうが…」
春枝は俺だけの運命でいたかったんだよ。と反省しておらず寧ろ開き直っていた降谷に苦い顔をした。気持ちは分からなくもないが、紹介くらいしてくれたっていいだろうが。
「というか景光。春枝に会いたくなかった理由はそれだったのか」
「あぁ…うん。今更俺に会って春枝を悲しませたくはなかったし、ゼロの女というのもあってやっぱりどこか言いづらかったんだよな」
「そこで妙に遠慮されて、今まで気付かなかった俺の気持ちを配慮してくれ」
「あぁうん。悪い…」
あぁー…春枝の初恋の相手が緑川で、緑川もまた春枝が初恋だったとそういう感じか。いやはや…何の因果かまさか警察学校の同期の親しい友人が番であり、偶然に出会ったと。
「いや、うん。ここまで行くとさ、なにかフラグが立ちそうだよな…」
「止めろ、萩原。俺もそう思ったが口に出してはいけない気がする」
待ったをかける俺に萩原もぐっと口を閉ざす。正直な話しを言えば…このまま行くと伊達すらも知り合いになる気がしてならなかったりする。いやいや…だってあいつはちゃんと番がいるし、そこまでの偶然は有り得ないだろうと頭を切り替える。と同時に春枝の「はっ、はぁああーっ!?」と怒り奮闘する大声がこちらの耳まで届いたのだ。