第20章 運命の番(過去編)3.5
「生きてくれてありがとう」
ぽすりと小さな体は俺にもたれ掛かり、すりすりと甘えるように胸板へ耳を押し当てて来た。彼女は甘え上手であり心臓が五月蝿いくらいに跳ねる、俺の番…可愛すぎか。安心したいがために俺の心臓の音を聞きたかったのだとしたら?そう期待してしまい考えると、先程よりも早くなり鼓動が高鳴った。
静かになった春枝を不思議に思い下へと見下ろせば、小刻みに肩を揺らしていた。直ぐに泣いていることに気付き、彼女の頬を包み込むように触れて両手ですくい上げた。ポロポロと雫が頬を伝い、俺の手にも触れる。まるでそれは真珠の玉だと錯覚すら覚えた、ハイライトが入り大きい瞳は輝きを増す。泣き顔ですら綺麗だと内心焦るも顔には出さなかったが、ごくりと喉を鳴らし生唾を飲み込んだ。
「嫌っ…今私の顔、酷いから見ないで下さい」
「っ、泣くな…怒って悪かった。俺生きてるから…」
「っごめんなさい…番、解消したくない…だって私は!」
もっとずっと見ていたい。だが彼女は恥ずかしがる様子で嫌がった。酷い顔とはどんな顔を指すのだろうか、と思いつつも逃がさないように謝った。すると申し訳なさげに眉を下げて番を解消したくないとはっきり伝えてくれたのだ。そこまで言われたら…期待に応えるしかないと、頬の涙を両手の親指で拭い春枝へと優しく口付けを落とした。
ーーー。
なんだこれは…俺の番が可愛いかよ。本当なら萩原のところへ行くつもりはあったのだが、嫌だと抱き着いて離してくれなかったのだ。置いて行かないでと瞳を潤ませて、控えめに俺のスーツの裾を掴む姿は最高に健気で愛らしくて振り解けるわけがなかった。仕方ねぇからこのまま傍にいてやるかと、そろそろ萩原も解体作業が終えるだろうと待った。
ーーー。
「えっ、なにこれ…どういう状況。なんで春枝ちゃんが泣いてるの?なんで松田は春枝ちゃんのこと抱き寄せてるの?えっ、俺だけ除け者とか狡くない?頑張った俺にはご褒美なし?」
「研二さん生きてる…いきてるっ…」
「って、なんで泣くの!?えっ?俺が悪いの!?」
「萩原喧しい、お前今はまじで黙れ」
「えぇー…陣平くん、酷いぃ…」
抱き合っている俺と春枝の姿を萩原は見ており、ドヤ顔をしておく。イラッと笑顔のまま苛立つ萩原は春枝に尋ねるが、目を腫らす彼女に困惑した。