第18章 運命の番(3)…緑川景光>>3
どうして、なぜ…と困惑する俺を甘やかすように微笑み頭を優しく撫でてくれる。無理はしなくていい、気分が乗らない時は止めてもいいんだと伝えてくれた。いつも楽しげに鼻歌を歌っていて、俺が彼女の鼻歌を思い出しながら軽くギターで奏でて見れば目を輝かせて笑った。沈んだ心を洗い流して簡単に救い出してくれる、そんな彼女のことが…俺はいつの間にか一人の女性として好きになっていた。
「カンパリっ!」
「あら、スコッチ…お早いお着きで。まぁ、バーボンやライもご一緒?本当に仲良しねぇ…」
「カンパリ…どこをどう見たら僕達が仲良しに見えるんですか」
「まぁまぁ、バーボン…そうカンパリに突っかかるなって」
「それにしても三人を見ていると、売れないバンドマンにしか見えないんですけど…」
「だが、顔はいいだろう?」
「えぇ、ライのいう通りです…目の保養とはこのことかしらね?」
ふふふっ…と淑やかに口元に手を添えて微笑む女性、カンパリは背筋をしゃんとして髪をまとめて結い、黒い着物を着て黒い日傘を差していた。なんというか…うら若き未亡人にしか見えない、憂いを帯びた表情がまた美人を十二分に引き出している。俺は彼女の姿には見慣れたが、バーボン…いやゼロやライは見慣れないからか少しばかり反応が遅れていた。なにより、ゼロはカンパリのような純日本人であり、淑やかな大和撫子タイプが好みだったと思う。珍しくゼロが突っかかるのはカンパリだけであり、その表情は少しばかり甘い…まさかゼロも惚れているとか?と気持ちがモヤモヤしたのは内緒だ。
「今日はフォーマンセルなんですね、宜しくお願い致します…」
ーーー。
カンパリは組織のような裏世界は似合わない。そう思うようになっていた。彼女を連れ去ってしまいたい、警察へ保護したい、俺の傍にいて笑って欲しい、そう考えてはいけないことばかりが募らせる。
ーーー。
そして俺は“NOC”とバレたーー…。
ーーー。
逃げ惑う俺に、ライが追い掛けて来る。その時引きずり込まれるように俺は薄暗い路地裏へと引っ張られた。黒い着物と、艶のある髪が乱れる。振り返ることなく俺の手を繋ぎ走る、道を抜ければ車が用意されていて俺を押し込むように乗せた。彼女も俺の隣へと腰掛ける。
「大丈夫です。今度は私がお兄ちゃんを助けます」
「えっ…」
出して頂戴、あの人も拾いますと運転手へ声を掛けた。