第15章 運命の番(過去編)2.5
記憶がフラッシュバックする。駄目だ、可愛くなった、駄目だ、綺麗になった、駄目だ、会いたかった、駄目だ、助けてくれた、駄目だ、好きだと言いたかった、駄目だ、彼女は俺の初恋だった、駄目だ、彼女はゼロの番候補だーー…
俺はなんて、愚かなんだ。彼女はどこをどう見ても一般人だ。そんな彼女を巻き込んでしまった。後悔して顔を歪める俺に、ヘルメットを頂戴と手を出す彼女がやはり好きだった。そっと手渡したヘルメットに握った彼女は、ふんわりと笑みを零す。
「貴方を助け出せて良かった、逃げないでくれて嬉しかった…あの、私が誰か分かりますか?といっても一度しか会ってないですし…随分昔の話しなんですけど」
「ど、して…なんで…君がっ…」
「貴方は私の恩人だから…どうしても助けたかった」
「っ、違う!あれはただ偶然見掛けたからであって、君を助けたのも俺のエゴだ!でも目が合った瞬間、君は俺の運命だった!君に会いたかった!でも駄目だったっ!会ったら今度は俺が君を傷付ける…あんなにも怖い想いをした君を傷付けたくはなかった。警察を待たずに結局君を一人ぼっちにして逃げた俺なんかが…君の番になる資格なんてないんだよっっ」
本当は諦めたくはなかったんだ、誰よりも彼女の番になりたかった。だがそんな俺は彼女から逃げた。不安で心細かった小さな少女を置いて、俺は逃げてしまったんだ。そんな俺が…今更彼女の傍にいたいなんて考えてはいけない。考えてはいけないのに、未だに体は反応する。彼女の番になりたいと本能が訴える。泣きじゃくる俺は、乱暴に頭を掻きむしった。どうして、俺はΩなんだ…どうして、彼女はαなんだ。嫌われていなかったことが嬉しいのにボロボロと涙が止まりを知らない。地面へと座り込み、何度も謝る俺にそっと優しく抱き締められた。優しくしないでくれと伝えても彼女は俺から離れようとはしなかった。
「貴方のその自己満足で今の私がいるんですよ?貴方が助けてくれたから…私は笑っていられるんです、Ωの人でも優しい人はいるんだって気付かせてくれた。それだけでも私は救われたんです…」
俺がぐしゃぐしゃに掻きむしった髪を、優しく解くように撫でてくれる。その優しさが今の俺には辛かった。だが、彼女を助けられて彼女の口から救われたと言われてしまったら…そう彼女の腰へと抱き着いた。あぁ…そうだった。この匂いだ。花のような甘く切ない匂い。