第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
「本当に行くのか?」
ユーリからマリンフォードへ向かうと聞かされた時、正直耳を疑った。
あそこは、今まさに戦争が始まろうとしている。
だが、彼女が治療したい人物がそこにいると聞かされれば、ここ半年の彼女の努力を無駄にするわけにはいかない。
「はい、本当に今までありがとうございました」
ユーリはレイリーと向き合うと、深々と頭を下げた。
レイリーの瞳には心配の色が浮かんでいたが、彼女の本来の目的がその場所にあるのだから、止めることはしなかった。
「落ち着いたら、必ず恩返しに来ますね」
「ははっ、そうかしこまらなくても、元気な姿をまた見せてくれればそれでいいさ」
ユーリは本当に強くなった。
だからそう簡単には死なないだろうが、出来ることならあまり危険ごとに首を突っ込んで欲しくなかった。
幾ら強いとは言え、女性が傷つくところなど見たくはなかった。
だが彼女は何の迷いもなく船に乗り込み、行ってしまった。
彼女が治したいと言っていた人物は誰なのだろうか。
ここまで必死になるくらいだから、恋人なのかとも思ったが、それは最初の頃にあっさりと否定された。
ただ彼女は、自分のせいで傷つけてしまった人、とだけ話していた。
「……死ぬなよ」
ユーリが乗り込んだ船を、見えなくなるまでレイリーは見ていた。
そんなに心配ならついていったらどうだと言われそうだが、今の彼女はレイリーよりも強い。
逆に足手まといになる可能性だってある。
美しい白髪をなびかせ、綺麗な翡翠色の瞳をもつ彼女。
そんな彼女は今、戦争の中心に飛び込もうとしている。
レイリーは嫌な胸騒ぎがした。
彼女の強さは本物だが、果たしてそれは何処まで通用するのか。
マリンフォードには、海軍の強者達がたくさんいる。
それに風の噂で、四皇の誰かが向かっているとも聞いた。
あらゆる覇気を扱い再生の力を持つ彼女が、よからぬ輩に目を付けられないか心配だった。