第3章 後編 王の願い 少女の想い
「……おれが意識を失って、どれくらい経った?」
シャンクスはゆっくりと身体を起こすと、静かにそう問いかけた。
「…えっ……1週間くらいかと。それよりもまだ安静に…!」
ユーリはシャンクスの肩に手を掛けて横になるように促すが、どうやら従う気はなさそうだった。
「意外と長かったな。……まぁ、仕方ないか。おまえの全力を受け止めてやったんだからな」
そう笑った彼は、何時もの調子だった。
普通の人なら死んでもおかしくない程の重傷を負ったはずなのに、微塵もその気配を感じさせない。
それはユーリを気遣ったものなのか。
シャンクスの言葉に、ユーリは泣きそうに表情を歪めた。
「どうしてあんな無茶をしたんですか」
シャンクスの手を掴んでいた彼女の手は震えていた。
そんな彼女の様子に、一瞬考える素振りを見せた彼だが、掴まれていた手を強く握り返す。
「だから言っただろ。全部受け止めてやると」
ユーリの頬に手を当てて視線を交えれば、困惑した表情の彼女。
意識を失う前に約束した通り、彼女はこの場に留まっていた。
それが意味をするのは何なのか。
彼女の抱え込んでいるものを話してくれて、その後はどうなる?
今更手放す気などないシャンクスは、悪いと思いつつ静かに彼女の言葉を待った。
どんな言葉が来ても、恐らくシャンクスが取る行動は変わらないだろう。
例えそれが、彼女が望んでないことでもだ。
そもそも彼は海賊だ。
欲しいものは奪うし、手に入れる。
裏では海賊の中でも常識人として言われている彼だが、別に善人ではない。
極端な話、高額な賞金額を掛けられるほどの極悪人だ。
ただ、今まで無駄な殺生や略奪をしなかっただけである。
そんな彼が、初めて略奪を考えている人物。
その存在は今、迷うように視線を彷徨わせていた。