第3章 後編 王の願い 少女の想い
「皆さん落ち着いてください。シュライヤは私が助けに行きます」
混乱する船内で、ユーリの声が静かに響き渡った。
その言葉にクルー達は静まり返るが、動揺しているのは変わらない。
「し、しかし、ポーネグリフと言うものが必要では…」
沈黙が続く中で、1人のクルーが声を上げた。
「それは先ほど、シュライヤから偶然私が預かりました。時間がありません、指定された島へ航路を変更し急いで向かってください」
シュライヤの命と引き換えにこの石を渡せと言っているが、相手はあの黒ひげだ。
もうすでに、シュライヤが殺されてる可能性だってある。
ユーリは焦る心を落ち着けると、凛とした声で次々とクルー達に指示を出していった。
指示といっても島に着いてから降りるのはユーリ一人で、他の仲間達は残り、何時でも出航出来るようにしておくというものだけだ。
ユーリのその提案に、当然だがクルー達は反対した。
それはユーリの身を心配してのものだったが、黒ひげの元へ1人で向かうという行動だけは、譲ることができなかった。
「この中で、私より賞金額が大きい人はいますか?」
皆で助けに行くと引かない彼らにユーリは苦笑したが、その表情を引き締め、言葉を放った。
本当にシュライヤは仲間から愛されている。
だからこそ、引くわけないはいかなかった。
「え?そ、それは…」
ユーリの表情が変わり、その気迫に押されたのか、クルー達は言葉を詰まらせた。
「私よりも強いと思うなら一緒に来てもいいです。そうでなければ、正直足手まといだ。一緒に来たあなた達を守りながら戦えるほど、私は戦い慣れてないし器用でもない」
何ともバッサリと切り捨てたユーリだが、それもこれも彼らを思っての発言だ。
「シュライヤがここに戻ってきたとき、クルーの誰か1人でも死んでいたら、彼はきっと悲しむでしょう。それは私もあなた達も望んでいないはずだ」
はっきりとした口調で述べていく、彼女の思い。
その言葉に、気迫に、クルー達はハッと息を呑んだ。
そして静かに頷いた彼らを見て、笑みを浮かべるユーリ。
そんな彼女の姿は、美しくもあり、逞しかった。