第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
そしてユーリがあの場所にいたと知っていながら誘拐された己の失態に、シャンクスは珍しく苛立った様子だった。
急いで仲間と共に船を出し、テキパキと指示を出す彼は何時もの船長だったが、身に纏っている怒りのオーラが尋常じゃなかった。
普段は穏やかなイメージが強いシャンクスなだけあって、彼が怒りを露わにするのは珍しい。
そしてそんな船長の様子に仲間達が怯えている一方で、一部のメンバー、特にベンは生暖かい視線を向けていた。
…はぁ、面倒なことになったな。
ベンはタバコをふかしながら追い付いた山賊の船を見ていた。
先日、頭からユーリを連れて行くと聞かされた時は、予想はしていたものの彼の正気を疑った。
だが、何度聞き返しても彼は大真面目に提案しており、もうこれ以上突っ込むことを止めた。
基本的に仲間の、特にベンの意見は参考にしてくれるシャンクスだが、今回の件は絶対に引かないだろうと無意識に悟っていた。
そして目の前で繰り広げられる覇気。
…まったく、子供のくせに恐ろしいぜ。
彼女が持つ力だけに、頭が興味を持ったのなら100歩譲って目を瞑ってもいい。
だがそれだけじゃないことを、ベンは分かっていた。
本人は気づいているのか知らないが、長年一緒にいただけあって、シャンクスがどんな目であの子供を見ているのか理解してしまった。
確かに容姿は整っていると思うが、年齢的にあのルフィと同じくらいだ。
どうみてもアウトだろ。
ベンはタバコをもみ消すと、ユーリが海に投げ落とされ、それを助けるため同じく海に飛び込んだうちの船長を何とも言えない表情で見ていたのだった。