第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
ユーリの身体は甲板に転がされており、山賊達は呑気に酒を飲んでいた。
「…ふ、ふざけるな」
ユーリは拘束されていたが、ゆらりとその身体を起き上がらせた。
そして静かに呟かれたその言葉に、気付くものはいない。
「…何で私の方を誘拐してるんだこの馬鹿野郎ー!!!」
突然響き渡った叫び声。そして僅かに空気が歪む感覚。
何人かの山賊達が、その場で意識を失った。
「お、おい、何なんだこいつ」
「私なんか誘拐して誰が得するんだよ!!今すぐ戻ってやり直せー!!」
ユーリが叫ぶ度に、空気がビリビリと唸り倒れていく仲間達。
その様子を見て流石にユーリの存在がヤバイと気づいた山賊達は、慌てて彼女の口を抑え、何と海に放り出したのだ。
「…だからそれも、やる人物が違うだろうがー!!」
そしてユーリが最後に放ったその一言。
それは、船に大きな爪痕を刻みつけていた。
時を溯ること少し前。
シャンクスは誘拐されたはずのルフィからユーリが連れ去られたと聞いて、慌てて助けに向かっていった。
実はユーリがあの場所にいたことを、シャンクスは知っていたのだ。
見聞色を持つ彼は、ストーカーよろしく朝からユーリがどこにいるのかを探索していた。
前回しつこく勧誘したせいで逃げられても困ると、そう自分に言い聞かせてその犯罪染みた行為を正当化していた。
まったくもって部下がそれを聞いたら呆れるだろう。主にベンが。
そして毎日飽きもせずにそんなことをしてるもんだから、ユーリの行動がだいたい分かってきた。
だいたい彼女は遠巻きにこちらを見ていることが多かった。
最初は避けられていると思ったが、話しかければ普通なのでそれは違うのだろう。
だが、彼女は何時も少し離れた場所でこちらを伺っているだけだ。
その理由が邪なものとは知らず、シャンクスは彼女の行動の意味が理解できず、暫し頭を悩ませていた。
因みに見聞色を使って彼女が何を考えてるか見たこともあったが、どういうわけかそれは出来なかった。
それが何を意味するか分からないが、流石にこれ以上はやり過ぎかと思い自重することにした。
もうすでに十分やり過ぎなのだが、今の彼を止めれる人はいなかった。