第3章 後編 王の願い 少女の想い
「あぁ、そう言えば勝負に勝ったら何でも1つ言うことを聞くんだったな」
ユーリが能力を発動させた瞬間、何やら不穏な言葉が聞こえてきた。
一瞬で元に戻った彼の左手。
シャンクスが左手の感覚を確かめているのを、ユーリは顔を引きつらせながら見ていた。
完全に忘れていたが、勝負を仕掛ける時にそんな約束をした気がする。
ユーリはフラフラと後ずさり、ソファーに腰かけた。
一体何を言われるんだ。
そんな考えが頭の中を駆け巡っていた。
もしこれで、一生奴隷宣言でもされたら厄介だ。
隙をみて逃げられなくもないが、面倒なことには変わりない。
通常の彼の性格から考えれば奴隷などと提案するはずもないが、彼のユーリに対する態度は通常のそれとは違う。
だからユーリは、落ち着かない様子で彼の次の言葉を待った。
「そうだな、おれの仲間になるってことでどうだ?」
「…へ?」
ーーーお、仲間になってくれるのか?
不意に、懐かしい声が、言葉が聞こえてきた気がした。
「それでいいんですか?」
元々仲間になることを狙って勝負を仕掛けていたが、実際にそれを提案されると何というか拍子抜けた。
それはここ数日間で行われた彼の暴挙から考えれば仕方のないことだが、ユーリは疑いの視線を彼に向ける。
「仲間は嫌か?じゃぁ奴隷だな」
「すみません仲間でお願いします」
口元に笑みを浮かべている彼は、恐らく冗談で言ってるのだろう。
だがユーリからすれば、笑えない冗談だった。
これ以上墓穴を掘らない為にも、彼の申し出を受けることにした。
どうせこの後は行く宛てもないのだ。
それならば暫くここでお世話になるのも、そこまで悪くないのだろう。
シャンクスが何を考えているか分からないのが、不安要素ではあるが。
「左腕の件といい、どうして気が変わったんですか?」
当初はあれだけ拒んでいたのに、どういう心境の変化なのか。
昨日の今日で何かあったわけでもなさそうだし、ユーリはシャンクスの真意を探るためにも疑問を口にした。