第3章 後編 王の願い 少女の想い
忘れてはいけない何かが、深い闇の中に落ちていく。
ユーリはゆっくりと目を覚ました。
ぼんやりと天井を見ること少し、辺りを見渡せばよく見知った部屋だった。
不自然に痛む身体に表情を歪め、ベットから起き上がる。
確かシャンクスに勝負を仕掛けて、当然だが負けた。
その後はどうなった?
プツリと切れている記憶にユーリは首を傾げる。
手足に付けられていた枷はいつのまにか外されている。
という事は逃げてもいいのだろうか。
ユーリはチャンスだとばかりに逃げる準備をしていたが、現実はそう甘くなかった。
突然開かれた扉に驚いて顔を上げれば、そこにはシャンクスの姿があった。
お互いの間に、重い沈黙が流れる。
「目が覚めて早々何処へ行くつもりだ?」
シャンクスはゆったりとした足取りでユーリに近づくと、近くのソファーに腰を掛ける。
ユーリは立った状態のまま固まった。
ストレートに聞かれたくないことを聞かれ、言葉に詰まる。
そんなユーリの様子に、シャンクスは声を殺して笑った。
「そう警戒するな。少し話をしようと思ってな」
そう言って向かいのソファーを指さす彼。
ユーリはシャンクスとソファーを交互に見ていたが、逃げるのを諦め、大人しく向かいのソファーに腰かけた。
「おまえも飲むか?」
そう言って見せられた酒瓶に、ユーリは首を振って拒否を示す。
シャンクスは特に気にした様子もなく、酒に口を付けた。
「…あの、話とは」
決して心地よいとは思えない沈黙に耐え切れなくなったユーリが口を開く。
そんな彼女にシャンクスは一度酒を煽ると、酒瓶をテーブルに置いた。
「おまえの目的は、おれの腕を治すことだったか?」
「えぇ、まぁ」
「そうか。治したければ治していいぞ」
「まじっすか!」
シャンクスの言葉に瞬時に反応したユーリ。
テーブルに身を乗り出してシャンクスの左肩に触れる。
その行動の速さに、シャンクスは思わず声を上げて笑った。