第2章 中編 古代都市シャンドラ
初めて見た彼女の笑顔。
シャンクスは暫しその笑顔に見惚れていたが、直ぐに礼を言って彼女の左薬指に指輪をはめた。
指輪にはめられた宝石は、孔雀石。
シャンドラの国石である。
そこに込められた意味を、彼女が理解することはないかもしれない。
だけど、彼女は自分の意思でシャンクスの申し出を受けてくれた。
それだけで十分だった。
「今更だが、本当にいいのか?」
シャンクスは立ち上がると彼女の頭に手を置き、優しく撫でる。
自信がないというわけではないが、本気で人を好きになったのは初めてなので、戸惑う気持ちもあった。
「じゃぁ却下してもいいんですか?」
「それは駄目だな」
ユーリが即答したことにたいして、彼もまた即答する。
お互い顔を見合わせて、笑った。
シャンクスは彼女の頬に手を当てると、ゆっくり屈みこむ。
交わされた口づけを、彼女は大人しく受けていた。
「さて、忙しくなるな」
シャンクスはシャンドラの街並みを見下ろして、そう呟いた。
「そうですねぇ、どっちかが死ぬまで終わればいいのですが」
「そういう縁起でもねぇことは言うな」
「いやまぁ…って、私が死に掛けなの何で知ってるんですか?」
「……おまえのことで知らないことはないぞ」
「え、まさかストーカー」
ユーリが一歩後ずさってシャンクスを見上げたが、伸びてきた手で頬を抓られた。
「そんなわけねぇだろ。おまえの調子が悪いのは気づいていたから、さっきかまをかけたんだ。お互い時間がないって言った時否定しなかっただろ?」
「…あぁ、なるほど」
ユーリは外された頬をさすりながら、シャンクスの隣に立った。
夕日に照らされたこの国を本当に守れるのか。
争いは何時まで続くのか。
不安なことは沢山あったが、不思議と怖くなかった。
それはきっと、シャンクスが一緒にいてくれるからだろう。
ユーリはそっと彼の右手を握る。
握り返してくれた彼の手は、きっと暖かいのだろう。
穏やかな時間が過ぎていく。
二人は暫く無言で、シャンドラの街並みを見ていた。