第1章 死人に口有り
改めて少女の依頼を聞けば、どうやら隣町まで向かいたいとの事。そして武田さんと言う人物に伝えたい事があるそうだ。それを成し得るまでは銀時の体を借りたい、と言うのが依頼となった。もちろん見た目も銀時のままであり、死者が喋る事などあり得ない。だからあくまで「銀時が少女の代弁者」として話す体で事を進める予定だ。他の詳しい内容は省略されたが、さっさと終わらせたい銀時は幽霊少女の好きにさせる。道を知っている彼女にそのまま体と誘導を任せた。
墓地を去ろうと少女は銀時の体を使って歩いていたのだが、しばらくして歩みを止める。彼女の視線の先には、ある墓石に刻まれた名前を指でなぞる中年女性の姿が入った。すぐにしゃがみ込んで手を合わせる女の横には、盲目の人間が使う白杖が地面に置かれている。おそらく目の見えぬ者が珍しかったのだろう。そう思って銀時は、動きを止めた少女を急かすように声をかける。
「おい、早く会いにいきてーヤツがいんだろ? 道草くわずにさっさと道案内しやがれ」
「あ、ごめん。やっぱ隣町まで行かなくて良いよ」
「ああ? 気が変わったのか? だったら俺の体から出てけや」
「ううん、違う。会いに行こうと思ったんだけど、どうやらアッチから来てくれたみたい」
「来てくれたって……まさか」
「そう、あの人だよ。私の会いたい人」
偶然なのか、そうでないのか。少女の会いたがっていた武田さんとやらはかぶき町に訪れていたらしい。静かに黙祷している女の邪魔をせぬよう、抜き足差し足で数メートル先まで近づく。しばらく黙って見守っていれば、やつれた顔をして暗い服を身に纏った女は重い口を開いた。
「ごめんなさい」
女の方が死人ではないかと錯覚するほど、彼女の謝罪は惨めな音色を含んでいた。