第1章 死人に口有り
懐かしい、とは決して表現したくない。けれど確かに感じた事のある感覚に銀時は更に冷や汗を垂らす。
「出来たァ! 出来たよォオオ!」
今度は目の前ではなく、己の体内から直接脳に響くような声を聞き、絶望的な状況を確認してしまう。間違いない、だいぶ前に仙望郷で経験した「憑依」と言うヤツだ。新八や神楽、そしてお妙ならばいざ知らず、銀時の中に入ったのは知らない少女。何をされるか分からない。けれど、一度は経験してなんとかなったのも事実の為、深呼吸でなんとか己の理性を保った。「大丈夫、大丈夫……」と銀時は自分に言い聞かせる。しかし悲劇はそれだけでは留まらなかった。
地面から立ち上がる際に目にした己の体に、銀時は驚愕する。
「何しやがったアバズレ!!? どうなってんだ!?」
「銀さんが逃げるから試しに取り憑いてみたら出来た!」
「そうじゃねーよ! 何で取り憑かれて女になってんのか聞いてんだよ! クソッ、仙望郷ではこんな事なかったっつーの」
あろう事か銀時の体は女のものに変化していた。服が少しダボつくほど華奢になった体、身に纏った着物が地面スレスレになるほど縮んだ身長、丸みを帯びた胸と尻、しなやかになった天然パーマ、股から消えてしまったムスコ……。それほど昔でもないデコボッコ教の事を彷彿とさせる。幽霊旅館で取り憑かれた時は顔ぐらいしか変化しなかったと言うのに、一体どういう事なのだろうか。もはや恐怖や混乱を通り越して、銀時は面倒な気持ちになった。
「私の代わりに武田さんと話してくれたら、出てってあげる」
取り憑いた少女も目的を果たすまでは銀時の中から去るつもりはないらしい。もう銀時に残された選択は「諦める」の一択しかなかった。