第1章 死人に口有り
「おいババア、今なんつった?」
「だから、さっきから一人で何やってんのか聞いてるんだよ」
「……一人?」
そんな馬鹿な。お登勢の目の前にいるのは怒りに任せて少女にグリグリをしている銀時と、グリグリされている少女本人の「二人」のはずである。少女は先ほどから大声で墓地を駆け回っていたし、今も別に銀時の影に隠れている訳でもない。ならば何故、お登勢は訝しげな視線を銀時に向けているのか。
ある可能性が脳裏を過り、銀時は冷や汗を額から、否、全身から吹き出した。思えば、あんなに傍迷惑な行為をされたら、礼儀や作法に厳しいお登勢が黙っている方がおかしい。もし銀時の思い浮かべている可能性が正しければ、お登勢のらしくない行動も頷けるのだが、彼はソレを認めたくはなかった。「いや、あり得ない。ない、ない、ない、ない、ない!」と心の中で叫びながら、銀時は錆びれたからくりのように首をぎこちなく少女に向ける。動きを止め、血の気の引いた握り拳の間にある少女と目が合えば、そこにはキラッキラと夜空の星に負けないくらいの輝いた瞳があった。
「お兄さん、私が見えるの!?」
決定的な台詞を吐かれ、銀時の肝が一気に冷える。