第1章 死人に口有り
「また煩い連中が、煩い騒ぎを起こすだろうさ。どうせアタシも巻き込まれるんだ。無事に年末を迎えれるよう、見守っておくれよ」
「夜ォオオーーー逃げのうたァアアアアアア!!!」
「うるせェエエ!!!!!」
イライラが募った銀時はついに堪忍袋の緒を切らす。隣の墓石の上へと身軽に飛び乗った少女がもう歌声とも言えないような叫びで歌い始めれば、銀時は彼女の頭を引っ掴んで地面に叩き落とした。「ぶべらっ!」と間抜けな悲鳴を上げた少女に銀時は遠慮なく怒鳴りつける。
「ちょろちょろと目障りだし、耳障りなんだよ! 空気読みやがれコノヤロー!! さっきから歌のチョイスもくだらねェんだよ! 大して上手くもねェくせに歌なんか口にすんじゃねー!! シメるぞゴラァ!!」
「え? え? ええええええ!?」
地面にぶつけた所為で鼻が赤くなった少女は混乱しながら顔を上げる。そんな反応を見た銀時は更に激怒を露にした。
「迷惑かけてる本人が何びっくりしてんだ! 叱られねーとでも思ってたのかバカヤロー! 感傷に浸ってるババアが許しても、俺ァ許さねーぞ! ただでさえ暑苦しい天気なのに、余計なウザさはいらねーんだよ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!」
着物の襟を掴み上げて少女を立たせれば、銀時はグリグリと彼女のこめかみを両の握り拳で押し付けた。もちろん遠慮のない攻撃は少女に痛みを与え、彼女はそれを悲鳴と共に訴える。そんな痛がる姿を見たからか、今まで黙っていたお登勢が銀時に声をかけた。
「ちょっと銀時」
「止めんなババア! こう言うお転婆娘はこれぐらいやんねーと学ばねェんだよ!」
「アンタ一人で何やってんだい?」
「何って、見て分かんだろ! ちょこまかと煩くしてるガキをシメてん、だろ、う……が…………」
明らかな状況に疑問を持たれたのでストレートに回答をした銀時だったが、よくよく考えればお登勢の質問は違和感に溢れていた。それに気付き、銀時の語尾は弱々しいものになる。嫌な予感がした銀時は単なる聞き間違えである事を願い、再度お登勢に問い返す。