第1章 死人に口有り
そう、例え生きた屍とレッテルを貼られても、「生きている」事には変わりない。武田はもう四十路に入る年齢ではあるが、人生を歩める人間にとって、まだまだ行動を起こせる歳だ。幽霊となってしまった少女には出来ない事を、まだまだ行える歳だ。それを忘れては欲しくなかった。勢いの止まらない少女は大粒の涙を頬に零しながら、思いの丈をぶつける。
「確かに最初は悔しかった。悲しかった! 何で私が死ななきゃならないのか分かんなかった! アンタを恨むつもりだった。でも違うの、怒ってないの。怒れないよ。アンタは馬鹿な事をしたし、アンタには命を奪われたけど、私はアンタを殺したくない。私の所為で、アンタの人生までも台無しにしたくない! アンタが私の命を奪う権利がなかったように、私にもアンタの人生を奪う権利なんてないのよ。だからお願い……お願いだから、私の死を無駄にしないで。私達の経験を活かしてよぉ」
「美羽、ちゃんっ? 本当に?」
信じられない、そう奇跡でも感じたかのような声で女は言った。少女は少女で、己の存在が本物だと証明するように、弱々しい武田の体を抱きしめる。そして、一言。
「武田さん……私はもう、とっくの昔に許してるよ?」
「…………っ美羽ちゃん!」
再び泣き崩れる女を強く抱きしめれば、銀時の体を借りた少女の心は穏やかになった。七年間も二人の魂を縛り付けた悲劇の鎖は千切られ、くだらない柵が消える。その事を実感した少女はニカッと笑い、武田の体を解放した。
「へへ。そういう事だから、早く幸せになってね。バイバイ!」
「あ、りがとっ……ありがとうっ!」
用が済めば長居は無用。伝えたかった事が言えた美羽はその場から軽快に去る。突然やってきた温もりは突然なくなったが、女は戸惑いながらも走り去って行く少女に向かって精一杯の笑顔と礼を向けた。七年ぶりの笑顔は妙に引きつっていたが、少女が目にした女の表情の中で一番美しかったのは確かだった。