第1章 死人に口有り
*****
「ありがとう、銀さん! お陰で心置きなく成仏できるよ」
「さっさと逝きやがれ迷惑娘」
「え〜、酷いなぁ。もうちょっと寂しがっても良いんじゃない?」
「バーカ。寂しがってんのはテメーの方だろうが」
「バレた?」
墓地の一角にある森林へ入った美羽は、ようやく銀時の体から抜け出た。その際、銀時の体は無事に男体へ戻り、疲れた彼はそのまま地面に座り込む。そんな様子の銀時を見てクスクスと笑っていた美羽は、彼との最後のひと時を会話で楽しんだ。
「ねえねえ、銀さん」
「んあ?」
「また会えるかな、私達?」
「さあな。けど、『袖振り合うも他生の縁』っつーだろうが。可能性は無くもねーだろ。つっても幽霊との縁なんざ、二度とごめんだけどな」
「ふふふ。そうだね、私も生身で銀さんに会いたいな。一足先に生まれ変わっとくから、ちゃんと私の事を見つけてね」
「バーカ、オメーが先に生まれ変わんなら、オメーが俺を見つけやがれ」
「やだ、何か面倒くさい。だったら銀さんと再会しなくてもいいや。その『縁』ってやつに任せようっと。それよりも仙望郷へレッツ・ゴー!! 幽霊婦人会の皆が『良いよ、良いよ』って噂するから、一回は行ってみたかったんだよね」
「ホント投げやりだよな、お前。しかも幽霊の婦人会なんざあんのかよ」
「幽霊にも幽霊のネットワークがあるのだ! 武田さんを見守ってはいたけど、だからと言って誰とも交流してなかった訳じゃないんだからね」
「聞きたかねーよ、そんな死後事情」
おそらく、二人が喋り続ければ楽しい時間は終わらないのだろう。美羽は己が生きていない事を初めて悔やんだ気がした。しかし行くべき場所が決まっているのは明白であり、その宿命に逆らうつもりもなかった。出来る事なら、来世で坂田銀時と言う侍に会える事を信じて、美羽は別れを切り出す。
「……じゃあ、また」
「おう」
笑顔を携えた少女は、ゆっくりと姿を透けさせながら消えて逝った。