第14章 告白と小さなお別れ
1Fの玄関口から少し回り込んだ場所で、仕事帰りと思われる人々が街路を通っている。
由来と承太郎はその通りの隅にいた。
(いた…!)
花京院は自分の部屋に戻っており、ベッドに腰をかけて楽にしながら、2人の様子を見る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
(な、何なんだ?この威圧感は……)
スタンドを介してでも分かるくらいの場の緊張感に、息を呑む。
ハイエロファントを、2人の死角の位置に潜ませて、会話に耳を澄ませる。
「単刀直入に聞く。さっきの話、どういうつもり?」
「言葉通りの意味だが?」
「あんな約束した覚えはない」
「さっきしたろう」
「あれは場の空気の流れの結果だ。皆の前であんな言われたら、NOなんて言えない。アンタは
・・・・・・・・・・・
そんな私の性格を読んで、わざとあんなことを言ったんじゃあないか?」
その口調はやはり、2人にしか分からない事情が組み込まれているニュアンスだ。
何やら思わしくない会話なのは分かる。しかし……
(何か……面白い気がしてきたじゃあないか…!)
内輪揉めでソワソワする一方、サスペンスドラマを見る時のようなワクワク感があった。
小説においても、仲間同士の衝突や蟠りは、見せどころの一つだ。
敵ではなく仲間に立ち向かうのも、また違う勇気がいる。
特に由来に限っては、修羅場をとても嫌う性格だからこそ、承太郎に対し、何を怒っているのか。
そこがとても気になる。
(一体どんな話をするんだ…?)
場面が変わり、ホテル前の夜道。
夜の独特の静けさの中、由来は承太郎に対してはっきり言う。
「日本で演奏するってことは、無事に生きて帰れたらって前提の上で成り立つ。それは、アンタも分かっているはず」
由来は心臓辺りの衣服の生地を掴み、自分の生命についてより強調して話す。
「私の演奏をそこまで買ってくれるのは嬉しいさ。それは認める。だけど、この先の旅で命の保証が無い限り、無責任に約束はできない。なのに、どうしてあんな嘘を……」
「………」
すると承太郎はそっぽむいて、帽子を深く被った。
外界の静けさに混ぜるように言った。
「ここで約束が果たされちまえば、てめーが未練もなく、また勝手に死んじまう気がしたからだ」