第14章 小さなお別れと告白
花京院は顔を上げて、由来の寂しそうな横顔を目にする。
「今、何て……」
「……本当の両親は物心つく前からいなかったけど、私を引き取った人の中に、いたんだ」
由来は自分の胸元に手を入れて、首元からネックレスを露わにした。
いつもは衣服の中にしまい込んで、誰にも見せないようにしているが、今は何だか、話したくなってきた気分なった。
花京院ほどの距離感を保てる友達ポジションになら話せるちょっとした過去。
そして承太郎には言えない。いや、絶対に知られたくない身勝手な解釈だ。
由来はチェーンネックレスのチャームの部分を摘んで、指先で転がしながら話す。
「確かにいたんだ。花京院くんの言うような、"真に心を通わせられる人"がね
「……君の、その…育ての親は、スタンド使いだったってことかい?」
由来は無言のまま頷く。
「私が戦い方やスタンド使いとして一般社会に溶け込むための処世術を心得ているのは、"その人"が色々教えてくれたから。花京院くんの方は……」
「……まあ、色々あったさ」
口を濁すということは、言葉の通り、色んな事情があったんだろう。
社会に馴染めない疎外感や、自分が時折、化け物に思てしまうような自責の念など、強い力を持つ者というのは、色んな自意識や責任を負うことと同義だ。
花京院と同じ生まれつきである由来にとっても、気持ちは似通っていた。
「……大切だったんだ。血の繋がりはなくても、同じスタンド使いってだけで、本当に、嬉しく、て__」
「?」
由来の声がだんだんか細く、小さく、途切れ途切れになっていく。
戦闘時の冷静で果敢なスタンド使いの姿とは全く異なっていた。
「由来…?」
花京院の呼び掛けに反応を見せず、由来は恨んだ声のまま、静かに訴える。
「いつか、ちゃんとお礼をしなきゃって、ずっと思っていた。『育ててくれてありがとう』って。でも、もう言えない…」
「……何が、あったんだ?」
そしてようやく花京院と目を合わせる。
「……思い出せない。でもこれだけは分かる。あの人は、自分の命を犠牲にしてまで、私を守ったんだ」
その表情は、かつて自分を守ってくれた存在がいた頃の、由来そのものだった。