第14章 告白と小さなお別れ
「ハッ!」
チロッ…チラチラ……
由来は周りのからの視線に気付く。
そりゃそうだ。
映画のワンシーンのような担がれ方をしているから、誰だって一瞥するに決まっている。私だってする。
「ちょっ、周りの人…見ているんだけど……」
恥ずかしさのあまりうまく声が出せない。
無理やり降りようとするも、足をがっしり掴まれているせいか、全く動けない。
背後もきっとスタープラチナで抑えているに違いない。
「だったら手短に話す。お前…自分がこの先、生き残る自信がねえから、そうやって弱気になって下ばかり見るんだろ」
承太郎が下になって、実に奇妙な体勢の中で、何やら奇妙な弁舌が始まる。
「だがこうすりゃ、少しは周りの景色がよく見えるだろ」
「?」
承太郎に釣られて、周りの光景にもう一度目を向ける。
行き交う人々よりも先に広がるのは、パキスタンの国境付近の街並み。
昼に回って見覚えのある景色は、夜の顔になると幻想的に見える。
(綺麗……)
確かに、承太郎の手を借りると、左目だけでも世界がよく見えた。
スッ
「!」
視界が下の高さに戻る。
ようやく承太郎は下ろしてくれたが、私の心臓は未だに高ぶっていて、元に戻るにはまだ時間がかかりそうだ。
「地べたを見下ろしてばかりじゃ、道を切り開いたとしても、真っ直ぐ進めねえ。片方だけならなおさらだ」
「……」
由来は自分の失われた右目に触れ、左目を伏せる。
承太郎の言う通り、自信の無さや消極的な性格が、彼女の癖として現れ出ていた。
ぽん
「!」
頭上に優しい手が置かれ、自然と視線が上に向く。
承太郎が由来の頭を優しく撫で、そのまま滑らせるようにして右目側の頬に優しく触れる。
「だから、この旅の間、俺がお前の右目の代わりになってやる。そうすれば、ちっとは前見て歩けるだろ」
「!」
1つの約束では乗り切れないなら、約束を増やせばいい。
百聞の方を信じてしまうのであれば、一見を信じられるよう、見えるようになればいい。
承太郎には、由来の力になりたいと、純粋な気持ちがあった。
彼女の見える景色や世界を変えられるのであれば、手を貸す。
言葉よりも先に"行動"で示すタイプの承太郎は、抱っこすることで、彼女にそう意識させたのだった。