第14章 告白と小さなお別れ
承太郎は由来の手元あたりを指さした。
「右目のハンデかと思ったが、そうじゃあねえ。おめーの演奏、以前と比べて若干遅かった。タッチも若干弱かった。以前とは違う弾き方、指先の動きが違ったのは、何か理由があると思った。例えば」
承太郎は椅子から立ち上がり、急なアクションに由来はギョッとする。
そして彼女と距離を詰めて、真に迫るように言う。
「今のテメーのような"体調不良"とかな」
「な、なるほど……」
由来は改めて理解した。
承太郎のスタープラチナは、万事を見透かす力があるのだ。
曲を奏でるのに、指先はとても重要な体の部位だ。
曲に合わせて動きを細かく調整し、僅かに変えれば、その奏でる音色の意味そのものも変わっていく。
その繊細かつ速い動きの世界を、普通の人間では見切れない。
ただ、スタープラチナのような、弾丸の速さでさえも見切れるイレギュラーがあれば、話は別だ。
承太郎はスタープラチナを介して、インドでの彼女の演奏の全てを記憶しており、その僅かな違いに気付いた。
だから、ただ1人だけ、彼女の不調が分かったのであった。
由来は目を逸らして、頭の中を整理する。
(え、ちょっと待てよ。承太郎は、1週間も前に、しかも初めて聞いた私の演奏を、たった1回聞いただけで、今回の私の不調を見抜いたと?)
確かに、頭の奥がぼんやりするような感じはあった。
国境を越えた時差ボケやら偏頭痛程度にしか思ってなかったから、そんなに気にしてはいなかったけども。
(まさか、それで無意識に曲調が遅くなっていたなんて……)
情報量が多過ぎる。いや、シンプルなことだ。
承太郎が演奏のわずかな違いから、私が本調子でないと悟って、それで敢えて、あんなこと言ったんだ。
『いや、俺はいい』
思い出すと、胸がちくりと痛む。
(自ら嫌われ役を買って、私を気遣った)
つまり、約束を破ったのは、
・・・・・・・・
私の方だったのか。