第14章 告白と小さなお別れ
「……人と心を通じ合わせるなんて、そんなこと不可能だと思うよ」
「え…?」
だって、もし本当に通じ合うなら、
・・・・・・・・・・・
今頃私はここにはいないし……
「……由来さん。やっぱり、雰囲気変わった?」
「え?」
「何だか……シンガポールで会ったときよりも、明るくなったようにも見えて、暗くなったようにも見えるというか……何だろう?」
アンは自分から言ったにも関わらず、首を傾げた。
「……そう言うアンも、思慮深いじゃあないか。結局、人っていうのは、どこかしらは似てるように作られるんだ。だから、その共通点が噛み合うことで、心が通じ合っているように見えるんじゃあないか?」
「う、うん……」
由来は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出した。
「由来さん。本当に水が好きなのね」
アンが聞いた。
「うん。好物だから」
(え?嘘でしょ)
由来はホテルの部屋の窓に視線を移した。
シンガポールとは違って、海はどこにもなく、辺鄙な町並みが広がっているだけだった。
(水と海は好きだけど、氷は嫌いかな……)
心が洗われるようなさざ波の音が恋しい。
「……」
「じゃあさ、承太郎のことも好き?」
「うん………ん?」
由来はペットボトルの傾きを変えて、ふたの口を自分の口から離した。
「なんでまた承太郎が出てくるの?」
アンは両手を頭の後ろで組み、ニカッと笑った。
「だってかっこいいし、承太郎に助けられた時……由来、何だか見たこと無い顔してたし」
「いや、それはないな」
アンの言葉を遮るように、由来はきっぱりと言った。
「確かに、物理的な強さと精神的な強さでは、尊敬に値するから、人間としては好感は持てるかもしれない。しかし生憎、ドラマや漫画で見るような、麻薬に溺れたジャンキーのように、人に執着するような好意を持つことはないよ」
(いや「麻薬」って……もっといい言い方ないの?)
確かに、恋とは人に勇気を与えもするし、依存性もある。
捉え方は人それぞれだが、由来には少し歪んだ恋愛論があった。
“親の愛情をまともに受けなかった自分が、誰かをまともに愛したり愛されたり、できるわけがない”
“いや、していいわけがない”