第14章 告白と小さなお別れ
(……でも、アンの言うとおり、私はあの言葉をかけられて、取り乱してしまった…)
承太郎にかけられた“あの言葉”が、今でも頭の中に染み付いて離れない。
『まあ……おめーのそこんとこは、嫌いじゃあねえが』
“好き?”
(……あんなことを言われたら、自惚れてしまう)
いかんいかん。私と承太郎では、そもそも生きている世界が違いすぎる。
かたや、母や祖父などあたたかい家族に囲まれて、愛し愛される資格のある人物。
かたや、母親に殺されかけたことで施設に送られ、愛し愛される資格のない人物。
そんな対極にいる人物同士が、一緒になれるわけがない。
由来は窓を開けて、バルコニーに踏み出して、手すりによりかかった。
水を喉に通して、一息つく。
(母が私を殺そうとしたのは簡単な理由だ。赤ん坊だった私は、まだ首も精神も座っていなかった。つまり、スタンドを制御できず暴走状態だったってわけだ)
ゆりかごの中でさえ、周りを氷漬けにした赤子を前に、母は自分が産んだ子と認めるのが怖くなって、狂ってしまった。
だから……
(母は赤子だった私の両手の平を、ガスコンロの火に押し付けた。
・・・
これがその証拠だ)
由来はひどい火傷の跡が残った自分の両手の平を見つめた。
ひどいと言っても、顔や首元のような目立つ場所とは違い、手の平に広がっているから、普通なら気付かれない。
ただ、香港沖の海上でポルナレフさんに「はじめまして」の握手を交わした時のように、手と手を合わせた時の違和感は相手に伝わるらしい。
(何より、勘のいい承太郎はとっくに気付いているはず。氷を張った海上へ引き上げたときも、私が崖から落ちそうになった時も、何度も手をつないで……)
手を……つないで……
カァァッ
何だか急に恥ずかしくなってきたが、また能力で顔を急速に冷やした。
手のひらを頬に張り付けて、顔の表面を常温になるまで下げる。
そしてその手のひらが視界に入り、また一息ついた。