第12章 クーリング ダウン
「あれは行き過ぎているんだ。例外と考えていい」
(花京院くん。けっこーポルナレフさんに辛辣なんだな…)
「承太郎はあまり女性に興味はなさそうだけど、少なくとも…由来のことを悪くは思ってないと僕は思うんだ。そうでなければ、前の君の演奏をあんな見とれていなかったし」
・・・・・・
え?見とれていた?聴いていたんじゃなくて?
「……私が演奏している所を、承太郎は目視していたの?」
「そうだ。承太郎の父親さんはジャズミュージシャンって言ってたよね?だからだったのかな。君の演奏に興味津々で」
承太郎はいつも冷静で何かに執着するイメージがない。
だからこそ、花京院はあの時のことが印象的だった。
(気付かなかった。まさか承太郎が第三者にそう認識されるくらい、私の演奏を…)
由来はピアノをやってきたのは、少なくとも誰かのためではなかった。
全ては自分のためだった。
児童施設にいた頃、自分と同じく周りにいた可哀想な子供でさえ、自分を心地良く思わなかった。
互いに傷つけ合い、弱いものいじめをすることで、自分の存在やその強さを肯定する。
酷い環境の中で、彼女が身を置くことができたのは、ピアノのそばだ。
養護施設にいた、1人のある先生がピアノを勧めたことで、彼女は自分の世界を作り出した。
教室の片隅で、とても小さなものだったが、彼女にとってそれは生きるための大きな力の源となった。
周りの冷酷な人間は嫌いだったが、自分の思い通りに音色を奏でてくれる親切なピアノは大好きだ。
由来は、昔の拠り所を思い出した。
「……だけど、承太郎はあくまで私の演奏に興味があるだけで、私自身って訳ではないと思うけどね」
花京院は私の好感度を上げようと頑張っているけど、私は別にそんな素敵な女性ではない。
「私は……ホリィさんのように性格も容姿も魅力的な女性には程遠い」
「何でホリィさんが出てくるんだ?」
「恋をするとしたら、あんな女性が……」
「わー!」
花京院は空条邸で言った恥ずかしい言葉をリピートされて、思わず言葉を遮った。
ここはインドで自分達の会話を盗み聞きされる心配はないが。