第6章 忍び寄る“影”(敵)
次第に皆は演奏に集中するために、食事の手を止めて目を閉じた。おいしいスープが冷めることなど気にもせず。
ジョセフたちも周りにつられて、目を閉じた。
(こんなにピアノを弾いたのはいつぶりだろう?)
私が奏でるピアノから流れる音色は、全て私が作り出す作品。
自分がここにいる証を残せると思うと、何だか誇らしい気分になれる。
由来はこの旅で、初めて笑みを浮かべた。
「何か、とても楽しそうですね。彼女は」
花京院たちはすでに目を開けていた。
ジョセフたちから見た彼女の背中は、自己主張をしないいつもの控え目な感じとは、まるで違っていた。
いつもすみっこで静かにしているのではなく、店の中心で堂々と演奏するなんて。
こんなにすごく目立って。
言い表すなら彼女は、ピアノを通じて自己表現をしていた。
明るい性格や声ではなく明るい音を。積極的な立ち振る舞いや話術の代わりに、巧みで繊細な演奏術を。
いや、ピアノと会話しているようにも見える。
無機物でできているピアノに魂を吹き込むことで、ここにいる全ての者に心の安らぎを与えた。
そして彼女の演奏は、前の曲に劣ることないフィナーレを飾った。
パチパチパチパチ
さっきよりも大きな拍手と歓声があがった。
中でもそばにいる女の子がお手本になるほど大きな拍手を送った。
ジョセフは左手が義手で上手く拍手ができなくても、心を込めて彼女を称えた。
由来が女の子に優しく接している光景は、食事客の期待を上回る。
演奏技術だけじゃなく、子供にも優しい。
(どうやら、心配するまでもなかったようじゃ)
十分なくらい息抜きはできたようじゃな
何せ、ここにいる10人の食事客と女の子1人分じゃからの
「_______!素敵な曲をありがとう。ピアニストさん」
「…いいんだよ。君のためになったのなら良かった。でも…本当はピアニストじゃあないんだ私は。このレストランのサプライズとかそんなんじゃあないんだ」
「ピアニストさん」って呼ばれると外国人になった気分になる。「ピエールさん」みたいな
そういえば、ピエールはポルナレフさんのミドルネームだったっけ?
女の子は面白おかしそうにクスクス笑った。
(ん?私、何か変なこと言った?)