第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
(!)
承太郎は思い出した。
コイツは一見嘘が苦手でバカ正直な奴だが、意外に勘が鋭いことを。
事実ストレングスの時も、彼女の何気ない言葉のおかげで正体が掴めた。
『ここはまるで“幽霊”船だよ』
(幽霊…“幽”波紋(スタンド)!?)
あれは無意識だったかもしれないがそれだけではない。
その前に幽霊船で、探偵のようにあらゆる場所を調べた。
髪の毛1本も落ちていない船内
人が握った後の体温がない舵
全く使われていなかった包丁
オランウータン用の果物しかなかった食糧庫
そして、突如感じた血のにおい
これらの証拠から、スタンド使いはオラウータンだと確信した。
承太郎の日常は、周りの女はうっとうしい奴ばかり。
彼女のようなタイプは全く持って初めてで、畏怖の念のようなものを少し感じた。
(“女の勘”ってやつか?)
コイツに隠し事は通じねえってことか
コイツが嫁とかだったら、旦那は大変そうだな
承太郎はやれやれとまたいつもの口癖を呟いた。
「…そうだ。お前が無茶しないように見てろと頼まれた」
嘘上手な承太郎は、彼女には正直に話した。
「なるほど。なら離れるわけにはいかないってことだね。理解した」
元々よそ者の自分が信頼されているとは思ってないから…
さっきまで承太郎と一緒にいることを拒んでいたのにあっさりと受け入れた。
と同時に、白いフードを被った。照れ隠しのつもりなのだろうか?
「何故フードを被る?」
「そっちも似たようなものだと思うけど…」
確かに承太郎は、いつも学生帽を被っている。
ただフードを被ったことで、背の高い承太郎からの視点だと、彼女の顔があまり見えなくなってしまった。
(さて、これからどうしよう…)
彼女はまた、何を話すべきなのかと頭を悩ませる。
考えられたのは4つ。
①もう大丈夫だから行こう(まだ5分経っていない)
②やはり先に行ってとねだる(相手の機嫌を損ねる上、そもそも出来ない)
③無言のまま乗り切る
④楽しそうな会話を出す(そんな脳みそはない)
彼女は現状維持の③が最善策だと考えた。
幸い、目の前に広がるのはシンガポール、観光地だ。
黙っていても、景色を眺めていれば話す必要もない。
彼の言うとおり、疲れているのを理由にありがたく黙っていれば…
「おい」