第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
そもそも私はただジョースターさんの旅にノミのようにくっついているだけの存在
この旅が終われば、私はジョースターさんたちとは元通り無関係になる
今は一時的に協力関係にあるだけさ
旅の目的はあくまでホリィさんの救出であり、親睦を深めるためでも、ましてや遊ぶためでもない
この人とはあくまで旅のお供であって、談話を楽しむ仲でもない
(でも…なんか…)
普段は進んで会話しなくても、心境が読めない承太郎と2人きりで黙ったままでは失礼な気がした。
(うーん…)
「疲れてんならむしろ喋るな。それに俺もだべるのは好きじゃあない」
「!」
承太郎は彼女の顔をろくに見ずに、何を考えているか当てた。
(さっきからひょっとして、心を読むスタンド能力があるの?)
残念ながら承太郎のスタープラチナは、シンプルなパワー型スタンドであり、読心などの特殊能力は使えない。
彼女の困り顔が分かりやすいだけだった。
予想外の出来事にいつもの冷静さはなくそわそわしていたから。
(やっぱり、敵わないなあ…)
とても勘が良く、仲間としてとても頼れる存在。
でも時にその良さは、心を見透かすほどの脅威になるのではないかと彼女は少し恐怖した。
自分の考えを見透かされていると思うと少し恐ろしい
あまり、私の心を見ないでほしい
窓の外に広がる空を見上げるとオレンジ色に染まっていた。
向こう側には、日の入りが高層ビルに隠れていく。
シンガポールの夕焼け空は幻想的で、日本でとは違う情緒ある風景。
スポーツ選手が試合中に空を見上げて緊張をほぐすように、その綺麗な景色のおかげかさっきより緊張がほぐれた。
そして意を決して話しかけた。
「…じゃあ、何で話しかけてくれたの?」
だべるのが好きじゃあないなら、黙ってればいいのに。しかも2回
いや、本を正せば私の隣に座ったことが不思議だ
承太郎が自分から隣に座ってくるなんて、地元の女子高生たちからしたら発狂するほど嬉しいことだろうが、彼女は違った。
「…俺も人間だから話すときは話す」
承太郎はいつも冷静で自分から話すことはなくミステリアスな雰囲気がある。
人間らしくない部分もあることは、彼女も知っていた。
(それはそうだけど…)
あ、もしかして…
「ひょっとして、ジョースターさんに私の監視を任された?」