第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
「!」
今度は承太郎から声をかけてきた。
無理して話す必要はないと気を遣った直後にまさか話しかけてくるとは。
「雨でも降ってきた?」
ハッ!
さっき天気の話題を模索していた影響とあの承太郎に話しかけられたから、由来はつい余計なことを口走ってしまった。
しかもここは建物の中だ。
「あ? 何言ってんだ?」
承太郎は首を傾げた。
「じょ、冗談だよ。気にしないでほしい」
(何か挑発的な余計なことを言ったら、この人の雷が落ちてくるかもしれない。気を付けなくては。私が今までこの人と一緒にいたときの雰囲気を全て分析して、今に繋げるんだ)
まるで学習型ロボットみたいなことを考えていた。
とは言っても、彼女はマジに自分から承太郎に話しかけたことは全くなかった。
他のメンバーにもあまりないが、特に承太郎には
・・・
あえて話しかけることをしなかった。
“ある”理由があったから。
(私はポルナレフさんとは違って、異性とかにガンガンいくタイプではないんだな生憎…この人もそうかもしれないけど)
由来は考え込んでいて、承太郎は彼女のことを待っていた。
「ごめん。それで話って何?」
「じじいたちには今回の件は黙っておく。約束だからな。
だが、俺はじじいの代わりをするわけじゃあねえが、これからは気を付けろ」
あ、これはお説教か…
由来は察した。
それはそうだ。約束を守ってもらったから、怒る権利は彼にある
「目的はどうであれ、外に行くときは他の奴らと一緒に行け」
「肝に銘じる」
「それか俺に言え。いいな?」
「うん?」
由来はきょとんとして、しばらく開いた口が塞がらなかった。
今承太郎がここにいる理由は、ジョセフの頼みだから。
今まで一緒にいたのも、敵に遭遇して戦いになったときのためであり、承太郎の意志ではない。
なのに今…
たとえ観光目的だとしても、「付き合ってやる」と言ったようなものだ。
(それにこの人、怒っていない…さっきから私の休憩で付き合わせているのに。いやそもそも…)
彼女が自ら承太郎に話しかけないようにしていた理由。それは…
「私…てっきり、アナタは女の人…苦手だと、思っていた、けど…?」