第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
ゾワワワワ~ッ
「!」
男はまたさっきのような妙な寒気を感じた。
常夏のシンガポールなのに。
「…だけど、もしまた私の目の前に現れたら、
その日がアナタの命日になりますよ」
「!」
背を向けてこちらをチラリと見るその目は、ただの子供のものではなかった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
(何だ…この女…!)
“な~に、お前らは由来ってアマを捕まえればいいだけだ。それか気絶させてくれりゃいいんだよ”
俺に依頼したあの男は言ってなかったが、この女マジにとんでもねえ
あのナルシスト男よりも、とんでもなくヤバいやつを持っている
性格や四肢のように、人が生まれ持つもののように
幾千もの戦を経験したジャパニーズサムライのようなこの威圧感
別に例えるならまるで…“獣”でも飼っているようだ
男はスタンド使いではない。
しかし、由来から感じられる謎のオーラにまた冷や汗をかいた。
自分とは異次元にいるような未知の存在。
さっきまでの聖母のような優しさからの一変。
コイツは…
「!」
男は急に目の前の女を見失った。
周りを見渡しても、ずぶ濡れの路地の上にうずくまった仲間たちしかない。
傷を癒やし恵みを与え教えを説き、急に姿を消したさっきの者
あれは、神様か何かだったのか…?
男はその後足を洗って、二度と悪事を働かなかった。
もし約束を破れば、罰が当たりあの女が再び目の前に現れ凍らされると信じたからだ。
あの女は、神様かその使いの者だったのかもしれない。
男はこの日から、差別する奴らを見返せるほど立派な人間になれるよう生きていこうと強く決心したのであった。
〈シンガポールの海沿いの街〉
由来は建物の壁に体重をかけて、低い体勢で歩いていた。
さらに少し呼吸が荒かった。
(脅しにしてはうまくいったかな?)
あの人のトラウマになってたら嫌だな
少し冷酷を装って強めに言ってしまったけど…
『ああ、うそだぜ!
・・ ・・・・・・・・・
だが…マヌケは見つかったようだな』
私は彼と違って、嘘苦手だな…
由来はこの旅を経て、承太郎の抜け目なさや嘘の上手さに関して、少し尊敬の念を抱いていた。
そして彼女が承太郎を羨ましいと思っている点は、
・・・・
それだけでもなかった。