第5章 【よん 雛鳥はテンガロンハットが苦手】
「あ~、もうそのまんまでいいぜ。驚かせたのはこっちだしよ」
彼は両手を顔の横に上げてヒラヒラと振る。
……争う気は、やっぱりない?
「おれの名前はエース。さっき言った通り、穴の原因はおれだけど、敵意はない」
分かったか?と聞かれて、渋々頷く。
それくらいとっくに理解してるわ! そりゃあんたが私に向けてたら、速攻負けてるだろうよ!!
「んで。このまま放置すんのは可哀想だから、おれの船で修理してやるっていう話だ」
「そんな話、信じるとでも?」
そんな上手い話がどこにあるっていうんでしょうね、この人は。
近くにいる船はあの船しかないんだから、恐らく彼は……
「貴方は海賊。でしょう?」
ジョリーロジャーを掲げる海の荒くれ者。海賊。
かなり冷たい声音で言ったのに、彼は怯む様子がない。当然といえば当然かもしれないけれど。
「そーそー! 白ひげ海賊団っつうんだ」
「海賊のことを信用しろと?」
無理にも程がある。
彼自身も信じてもらえるとは思ってない筈だ。
なのに。
なんで、そんなにこにこ笑ってるの、この人。
「信じろとは言わねぇよ。でも、この状態で航海できんのか? おれはあんたが同行者じゃないし、攻撃する意思もなさそうだから言ってんだぜ?」
確かに、この状態で航海するのは厳しいし、攻撃する意思も毛頭ない。
というか攻撃なんてしたら最後でしょ。
それくらい分かる。馬鹿でもこんなでっかい船に攻撃しようなんて考えないでしょ。