第5章 【よん 雛鳥はテンガロンハットが苦手】
「確かに。このまま航海するのは厳しいでしょう。でも、100%不可能な訳ではありません。動かす方法くらいあります。それに」
そうだ。
彼が海賊だからとか。敵意を持ってなさそうだからとか。そういう問題じゃなくてね。
「貴方が海賊だろうと、海軍だろうと、私に貴方を信用する理由がありません。おいでと言われてほいほい付いて行けるほど無防備じゃありません」
きっと間違いじゃない。
海賊だろうがいい人はいるだろうし、海軍だろうが悪い人はいる。
今の私が信じられるのは見て感じた情報だけ。
「ん、分かった。じゃあ、おれはおれ自身の誇りにかけて。オヤジの名前にかけて誓ってやる。ぜってぇにあんたへ危害を加えない」
「なんで……」
そんな真っ直ぐな目で私を見るの?
貴方にメリットなんて、ないでしょ。
放っておけばいいだけの話なんだからさ。
思わず零れた疑問の言葉に、彼は……エースは太陽の様な笑顔を見せた。
「単純に、あんたみたいな弱っちそうな女が1人で航海してるのに興味があるし。上手い話を鵜呑みにしない性格も気に入った! それだけだな」
負けた。負けたよ、お父様。
この人からは、悪意の欠片も感じ取れない。
もしこれで悪人だったとしても、それは私の見る目がなかっただけだ。
ヒナは諦めた様に、でもどこかわくわくする様な顔でため息をついた。
「……ヒナ」
「あ? なんか言ったか?」
「私はヒナ。少しだけ、貴方の誓いを信じてみますよ、エースさん」
もう、なるようになればいい!
ちょっとだけ、彼の真剣な目に心臓が跳ねたのはここだけの秘密。
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「なーなー! それっておれらんとこ来るってことか!?」
「……それくらい、話の流れで分かるでしょう」
「はっきり言ってくんねぇとわかんねぇよ~!」
「分かりなさいよ!!」
……前言撤回!!
こんな人にときめいたりなんてしてないんだから!