第5章 【よん 雛鳥はテンガロンハットが苦手】
咄嗟に後ろへ飛び退いて距離を取る。
狭く小さい舟の中だから、そんなに離れられないけど、近くにいるよりはましだ。
私の警戒心バリバリな様子を気にした風もない。
軽々しく舟に乗り込んできた彼は、またにへら、と人懐っこく笑う。
「ん、帆に穴空いてんな。……さっきの強風か?」
嘘をつく理由はないので、こくりと素直に頷く。
帆に穴が空いていることくらい見ればわかることだし。
ぽっかりと穴が空いてしまった帆を見て、彼は申し訳なさそうに眉を下げた。
「悪い!それおれの所為だ……」
「……は? 貴方があの強風を起こしたとでも?」
もし故意に行ったとしたら、彼は敵意近しい何かを私に向けていることになる。
彼を見つめる。一挙一動を見逃さない様に、じっと。
「ああ、そうだ! さっき仲間にからかわれてよ~。ついムキになっちまって、な。こう、ぼっと」
言葉と同時に手から、というか、手が炎に。
「…………っ!?」
反射的に攻撃されると思った私は、舟の縁に飛び乗った。
次に何かするようであれば、躊躇いなく海に飛び込む。
この辺りは珍しく海王類――怪獣みたいなサイズの魚(?)っぽい生き物――が少ない。すぐに死ぬことはない筈だ。
「お!? わりぃ!! 驚かすつもりはなかったんだ!」
「…………」
慌てた様子で弁解している彼。
でも、今の一瞬で分かった。この彼は、強い。
本気を出されたら私は勝てない。捻り潰されて終わりだ。
更に警戒して、まさにハリネズミが針を逆立てているような様子のヒナに、彼は参ったなぁと頭をかいた。