第5章 【よん 雛鳥はテンガロンハットが苦手】
気がついた時には、それはすぐ側まで来ていた。
オレンジ色のテンガロンハット。
海の男らしく茶色く焼けた肌。
水上オートバイ(ジェットスキー)みたいな形の乗り物に乗った男の目は、しっかりとこちらを見据えていた。
ここまで近づかれたらもう回避はできない。
逃げるにしても小回りのきくあちらと、普通サイズの船であるこちらでは追いつかれてしまう。
船室に武器を取りに戻る時間もない。
仕方ない……オールでもないよりはまし、か。
近づくそれから目を離さないようにしながら、しっかりとオールを握りなおす。
ただそれは、私の意識が自分に向いたことに気がつき……にかっと人懐っこい笑みを浮かべたまま近づいてきた。
「なーなー、何してるんだ? 女1人で船旅なんて危ねぇだろ?」
「…………」
なんの悪意もなさそうな顔で話しかけてきた。
ううん、外見に騙されちゃだめ。外面なんていくらでも誤魔化せるんだから。
身体に力を入れたまま、警戒心を露わにして構えるヒナの様子に、船の横に付いたまま彼は頭をかいた。
「そんなに警戒すんなよ……って言っても無理か。ま、当然だよな」
んじゃ、邪魔すんぞ~。
ぎょっとした。
その言葉と同時に、彼は手際よく自分の乗り物を繋ぐと私の船に乗り込んできたのだ。
え、ちょっと何してんのこの人!?