第4章 【さん 雛鳥、海に出る】
つい最近の筈なのに、お父様と生活していた日々がはるか昔の様に感じる。
それだけこの1ヶ月は濃厚な時間だったのだ。
「ほんっと、流石に大した実践なしで航海するのは無謀だわ……」
知識としてはあったものの、
航海の実践なんてこれが初めてだ。
海の恐ろしさを知ったし、水の大切さも実感した。
何度も死にかけた。
それでも今生きているのは。
『こんちゃす! こんちゃす! ヒナ!』
「ん、こんにちは。シルフィー」
彼らのお陰でもある。
私がシルフィーと読んでいる彼らは、風の精霊らしい。
声が聴こえるだけで姿は見えない。多分、姿がないって認識が正しいんじゃないかな。
彼らは私に天気を教えてくれるし、危ない海域も逸らして船を動かしてくれる。
もちろん頼りっきりなわけではないけどね。
「シルフィーどうしたの? 天気でも変わる?」
海の天気はころころ変わる。
今は雲ひとつない晴天だけど、一瞬のうちに雷雨になったりするから気が抜けない。
さっきまで寝てたけど。
『う~ん、ちゃう~! この先白ちゅーい!』
「……白? 何も見当たらないよ?」
『む~、白なの! ないないけどあるあるの!』
普段は気にならないシルフィーの幼い言葉だけど、
今回ばかりは非常にまだるっこしい。
ないないけどあるある……?さっぱりだ。
「ごめん、よく分からないよ」
『うぅ……あぶないはないないよ。フィーはかえる!』
「え、ちょっと待って! 怖いんだけど!」
『こわいのないない! へーきちゃすっ』
ばいばい~と声を残して、シルフィーの気配が消える。
私の中に残されたのは不安ともやもや……
一体、あの子は何しに来たんだろう?