第1章 日常のはなし。
バーボンの入ったグラスに氷を入れて揺らすと、カランカランという音が静かな部屋に響く。
…ただ、一つ気になったのが、5本ある酒のその内3つがバーボンだという事。
安室透よ、何故そんなにバーボンを買った。
しかも私にばかり勧めてくるバーボン。一本を飲み切り、他の酒を開けようとするとすぐに注がれるバーボン。
「……バーボン地獄…」
「はは、さんったら面白いこと言いますねぇ」
「貴女がバーボン好きって言ったんですよ」と照れた様に笑う安室透に、顰めた眉が戻らない。
その頬は酒のせいか、ほんのり赤く色付いている。
「バーボンに何かあるの?」
と聞くと急にピシッと動きが止まったので、やらかしたと思った。
必死に誤魔化そうとしてて、可哀想になってきたから詮索は辞め、話題を変える。
しかし、これだけバーボンを勧めてくるという事は、バーボンに何かありますよ、と言ってる様なものだ。
「そういえば、今度コナン君が園子ちゃんに連れられてベルツリー急行乗りに行くらしくて、誘って貰ったんだよね。その日暇だし私も」
「駄目です」
私の言葉に容赦無く自身の言葉を被せてくる安室透。
その声は低く冷たくて、この人間は本当にあのいつも穏やかで、ニコニコと微笑みを絶やさない安室透なのかと冷や汗が出たほどである。
なんで、と聞こうにも聞けない状態で、次の言葉が喉に詰まって出て来ない。
安室さんの顔をチラリと横目で見ると、恐ろしく冷たい瞳の中に、少しの哀愁を滲ませていた。
「でもさぁ…豪華列車……」
「…どうしてもというなら、絶対に毛利さんから離れないで下さい」
只ならない安室さんの雰囲気に、私のか細い反抗心はポキリと折れ、ただ黙って頷くしかなかった。
何で安室さんはこんなに私を引き止めようとしているのだろう。
良いじゃないか、仲間(社畜)を見捨てて休日を楽しむくらい。あいつらもきっと笑って送り出してくれるさ。
高校生に手配してもらって豪華列車に乗る会社員って世間体が心配。
金目当てじゃないですって必死で弁解してもきっと信じてもらえないだろうな…
そんな事を考え、わりと本気で心配になりながらお酒を煽る。
安室はというと、酒を飲み下しながらさきいかをつまむを、何処か悔しそうな瞳で見ていた。