第2章 ベルツリー急行編
コナン君と手を繋いでベルツリー急行へと歩く私の様子を、恨めしそうに見つめる哀ちゃん。
その目は私ではなく、コナン君をジトリと見ている様だった。
「もう…江戸川くんったら……」
「どしたの、哀ちゃん」
「ううん、さんは知らなくていいのよ」
聞いてみると、大人っぽい返しで軽くあしらわれた。
そして約2週間待ち望んだ列車の中に、小五郎さんと蘭ちゃん、園子ちゃんに世良さん、博士達、そして私の約11人で乗り込む。
結構な大人数を軽々と手配しちゃう園子ちゃんって本当にお金持ちだよね。
何で一般庶民のOLがその金持ちお嬢様と仲良くなってるのだろうか。
この世の不思議ベストテンである。
この2週間の間、毎朝喫茶店に通ったものの、あの背の高い銀髪男は全く姿を見せなかった。
自分から
『ここにくれば、またお前……と会えるか?』
とかイケメンに言ってた癖に来ないし。
メニューにオムライスを追加したらしく、昼も通うようになったのに全然来ないし。
お陰で裏社会の影に怯える事もなく、平穏な日々だった。
「お姉さんの部屋一人部屋なんだね!いいなぁ、遊びに行ってもいい?」
「うん、全然いいよ」
ニコニコと可愛く笑う歩美ちゃんに言葉を返すと、「やったぁ!」と喜んで、元太君達と一緒に少年探偵団の部屋に帰って行く。
その背中を眺めていると、ふいに耳に届いた声。
「さん、6号車のB室なんですね!それも一人部屋だって?
遊びに来ても良いですよね?」
「うわあ…」
同じニコニコでも、この人のニコニコは何処か恐怖を感じさせる笑みだ。
ハッキリ言って恐怖しか感じないのだが、この笑みは女性にかなり効果的面なのである。
いつもと変わらず、蜂蜜色のサラサラとした御髪を掻き上げた目の前のこの方は、本当にイケメンな様で、女性客に黄色い悲鳴を挙げられている。
「あああ安室さんは何故ここに……?」
「パスリングをネットオークションでうまく競り落とせまして。
貴女もかなりお楽しみな様で、こちらも楽しくなってきますね」
「ハハ、ハ……」
極上の絹のように優しく微笑みながら私の頭を撫でる安室さん。
この人に笑みがつい引き攣ってしまうのも無理はないだろう。
そんな廊下に、こちらへと歩いてくる革靴の音が響いた。