第1章 日常のはなし。
「安室さんって彼女いるの?」
そう言って安室透に目線を投げると、ロボットの様な動きで助手席に頭を向ける。
その後ろの窓からは通り過ぎていく夜景が見えて、イケメンと夜景の組み合わせは強いなと確信した。
「………え?さんやっぱ僕の事好きなんじゃ……」
「違うけど」
そんなにバッサリ言わなくても良いじゃないですか、と機嫌を損ねた安室さんが前を向く。
その間にも鼻孔を擽る甘い林檎の香り。これは誰が匂っても女性ものの香水の匂いだ。
「だってこの香水、女性ものでしょ?林檎の匂い。」
そういうと安室さんの動きがふと止まり、表情が強張る。
でもそれは一瞬で普段の穏やかなものへと変わった。
心なしか、目が普段とは違う様に感じた。沖矢さんに遭遇した時の様に、焦りと狡猾さが入り混じっている瞳。
「…ああ!それは姉を駅まで送った時のものですよ!短時間だったのに匂っちゃいますか…」
「へえ、お姉さん居たんだ。何歳?」
「……30代です」
そう言った安室さんに非常に驚き、え、30代?とつい零してしまう。
そんな私を怪訝そうに見てくる安室透。何故驚く、とでも言いたげな顔である。
「随分離れてるんだね。10歳くらい違うの?」
「………え?」
「え?」
この男の姉とすれば随分顔が整ってるんだろうな、と思っていたその時。
私は衝撃の真実を知る事となる。
「僕、29ですけど」
当たり前のようににそう言ってのけた安室透の顔と、その発言に違和感を感じるのも無理はないと思う。
は?この童顔野郎が?29歳?
「……嘘でしょ?」
「え?ずっと20歳くらいだと思ってたんですか!?」
思ってた、と頷くと、ええー…と声を漏らす安室透。
こっちがええー…って言いたいわ!!
どんだけベビーフェイスなんだこいつ…
「さん26でしたっけ。僕の方が歳上ですねー。」
「本当じゃん…。って何で歳知ってんのあんた…」
「リピートアフターミーお兄ちゃん」
「言うか!!!!!」
ええ…未だに信じられない。
マジで?本当に?
まあ本人は年齢とか気にしてないみたいだからいっか……
安室透、恐ろしい男…!!