第1章 日常のはなし。
3人にしては広いテーブルに肘をついて携帯を弄っている安室透と、TV番組を見ている私。そしてエプロンを着て、新妻の様にキッチンで料理している沖矢昴。なんともカオスな空気である。
キッチンの方からはすでに美味しそうな匂いが漂ってきて、食欲を擽られた。
「どうぞ、温かい内に。」
「毎度ありがとうございます。………ラブ?」
まるで、私の空腹を察したかの様なタイミングで差し出された、ふわふわのオムライスに思わずよだれが出そうだった。
が、その食欲を削いだのはケチャップで書かれていた『LOVE』の文字。思わず首を傾げて真顔になるのも無理はないと思う。
安室さんには何も言わずに差し出して舌打ちされてたけど、なんの反応も無いから多分気にしてないのだろう。
「沖矢さん、ちょっと何ですかラブって!!」
「別に安室さんに書いてる訳ではないですから良いでしょう?」
「さんに書いてることが大問題なんです!!」
とプンスカ怒っている安室透を横目にオムライスを口に運ぶ。
あ、やっぱ美味しい。さすが沖矢ママ。
「めちゃめちゃ美味しいです。本当いつもありがとうございます」
「ぐっ、認めたくはないが確かに美味しい…」
「安室さんのハムサンドもかなり美味しいよ」
そうフォローしてあげると「ほんとですか!?」と目をキラキラさせる安室さん。
この人のファンである女子高生達に安室透は意外と単純ですよ、と教えてあげたい。
その後も取り憑かれたように口に運んでいると、ふいに口元に伸びる手。
「ついてましたよ。」
沖矢さんがそう言って指に付いたデミグラスソースをぺろりと舐めた。安室さんが机を拳で強く叩く。
良い大人の癖して口元にソース付けるのは本当に恥ずかしい。
と、夜もふけてきた頃。
「さんをマンションに送っていきましょうか」
「あ、それなら僕が送っていきます。」
「……そうですか、お気を付けて」
何故2人が私の家を把握しているのかは分からないが、取り敢えず帰ることにした。
沖矢ママにしっかりお礼と挨拶をしてから家を出る。
安室さんの愛車に乗り込み、後部座席に座ろうとして、強制的に助手席に座らされた。
林檎のコロンがふわりと香ったが、どうにも安室透の性格とは合わないような気がした。
……あ、女性か。