第6章 おはようは笑顔で
そういって、優しく笑う彼女に
どうしようもなく胸が締め付けられる。
知らなかった。
いや、知ろうともしなかった。
そんなふうに、笑うことを。
「俺の名前…どうして…」
『名前くらい、わかりますよ!』
少し誇らしげにそう言う彼女と、
いつかの主の姿が重なる。
本当に主の子なんだな、なんてことを思う。
「なあなぁ、主!!
俺のことは貞ちゃんって呼んでくれよ!」
「僕も下の名前で呼んでほしいな。」
『貞ちゃん、光忠さん。
朝ごはん、ありがとうございます。』
そう言ってまた、ふわりと笑う。
ああ、やっぱりだ。
その笑顔を見ていると、
どうしようもなく胸が苦しくなる。
胸の高鳴りや、頬が熱いのを誤魔化すように
持っていたお膳を押しつけるように渡す。
「また、持ってきてやるよ。」
そんな、当たり障りのない言葉を添えて。
『はい!!楽しみにしてます。』
今さらかもしれない。
だけど、この笑顔を守りたい。
なぁ、主。
これからは、守ってみせる。
だから、その笑顔をずっと見せてほしい。