第6章 君に触れて
「先方には体調不良とお伝えしておりますので、話を合わせて頂くようお願い致します」
「…解った。
生瀬、松重の事だけど…」
「雅紀様が密かに別荘に荷物を運ばせ、料理やバイクの手配をさせた“元使用人”の事でしょうか」
「元、って…松重の事、クビにしたのか」
「クビとは人聞きの悪い。
田舎に帰るというので、旦那様がご厚意で無期限のお暇を与えてくださったんですよ
餞別もしっかりお渡しさせて頂いております」
「……汚ぇよ…」
「何か?」
「…なんでもない……」
父は、欲しいものは何でも手に入れた
どんなやり方をしても
誰を傷付けても
そして不要になったら簡単に切り捨てる
金と、権力
それが全てだと、子供ながらに父を見て悟った
いつか、俺もあんな風に
父のようになる事を
まるで他人事の様に甘受していた
それでも学校ではなるべく普通でいたかった
ただ、どうしたって避けられないのは、
ゴマを摺る教師
親の指示で俺に近付こうとする同級生
金目当ての女
乗っかったレールの先に見えるのは
汚ぇ大人になるように準備された
夢も希望もない灰色の俺の未来だった