第10章 揺れる
「カズくん、大丈夫...?」
バスルームの磨りガラス越しに聞こえた、心配そうな智さんの声
風呂に入ると言ってから結構な時間が経ってたんだろう
「...ゴメン。今、出るから」
「いやっ...!いいの、いいの!そうじゃなくて!
あんまり遅いから逆上せちゃったのかと思って心配で!
大丈夫ならいいんだ、ゆっくり浸かっ...」
「兄貴、」
「...うん?」
「俺...」
次の言葉をなかなか発しないのを見かねて、智さんが磨りガラスの扉をほんの少し開けた
「カズくん」
柔らかい声がバスルーム内に響く
ジーンズの裾をたくし上げて浴槽の近くまで来ると、俺と目線を合わせるように、そこにちょこんと座った
「俺ね...、アノ人の事が好きなのかも知れない」
そう呟いた俺に、智さんは目を丸くして『 気付くの遅いよ 』と笑った
この気持ちが何なのか分からなくて自問自答してた事を話したら
『 ちゃんと答えに辿り着けて偉かったね』と頭を撫でてくれた
やっぱり智さんはお兄ちゃんだ
ありがとう、兄貴
一番最初に惹かれたのは実は智さんなんだってことは
このまま自分だけの秘密にしておくよ