第1章 翔べない鳥
智さんから借りたTシャツとハーフパンツはジャストサイズで
柔軟剤のイイ匂いがするし、俺のゴワゴワのTシャツとは肌触りが違う
このタオルだってフカフカで…
「お帰り。お湯加減どうだった?」
「えっと…とっても、いいお湯でした…?」
なんで俺、疑問系なんだ
「よかった。じゃあ、こっち!此処に座って?」
どうしたらいいか分からずに持ってきてしまったバスタオルをヒョイと取り上げて
智さんは腕を引いて俺をソファーに座らせた
「髪、乾かそうね」
「や、そんなの…!」
「いいから いいから」
強引といえば強引だけど
なんだろう…この心地良い強引さは
「熱かったら教えてね?」
「大丈夫…です、」
細くて長い、綺麗な智さんの指が
俺の髪をクルクルと弄ぶ
髪を触られるのってこんなに気持ちいいんだ
翔さんが頭を撫でてくれた時もそうだったけど
何故だろう
心が穏やかになって行く気がする
ギュッと閉じた目を薄く開けると
翔さんが俺達を見て優しく微笑んでいた
「カズくん、髪サラサラだね?」
「…ふぇ?」
智さん、今、『カズくん』て言った?
「肌もこんなに白かったんだねぇ」
「はぁ、」
一気に距離を縮められた様な… 気のせいかな、
「はい、終わり!」
俺の髪を手櫛で整えると、智さんは満足そうに微笑った
冷蔵庫から取り出した瓶の中身はハーブティーだそうだ
此処のベランダでハーブやレモンを育ててるんだって
安眠効果のあるソレを、『飲んでてね』と言ってテーブルに置いたあと
智さんはバスルームへと消えて行った