第1章 翔べない鳥
「ただいま」
都心の高級(たか)そうな高層マンションの最上階
ただいま、と声をかけたのは誰かと一緒に住んでいるからなのか
ドアを開けてすぐに鼻をかすめた美味そうな匂いに
俺の腹の虫が盛大に鳴って
慌ててぎゅっと抑え込んだ
「ハハッ 腹、減ってんだな」
決してバカになんかしてない笑みに
俺も素直に頷いた
家族持ちなんだろう
このイイ匂いは誰かがこの人の為に作った夕飯の匂いに違いない
「今帰ったぞ」
奥さんかな
俺なんかが突然くっ付いてきて迷惑じゃないだろうか
奥からパタパタとスリッパを鳴らす足音がする
「お帰り! 遅かったね?」
ひょっこり顔を出したのは
エプロン姿の...
「ただいま、智」
「お帰り、翔くん!」
この人、ショウって言うんだ
で、こっちの人は...奥さん、じゃなくて兄弟?
にしては似てないな
「で、その子は?」
「あー...、
お前、名前は?」
そっか
俺、自己紹介もせずにノコノコ着いて来ちゃったんだ
この人の名前も今初めて知った
「......えっと、」
グゥー...
「...っ、」
返事をするより先に鳴った、俺の腹の虫
「お腹空いてるんだね?
自己紹介は後にして夕飯にしよ?
さぁ、入って」
こんなどこの馬の骨だかわかんない奴が急に上がり込んで来たのに
この人___サトシさんには警戒心とかないんだろうか
「さぁ」
「おじゃま、します...」
ショウさんに背中を押されてリビングに入ると
一面ガラス張りの部屋からは
東京の夜景が宝石みたいに煌めいていた