第1章 翔べない鳥
父親は定職にも就かず
闇金から金を借りてはギャンブルに注ぎ込んでいた
自転車操業で膨らんだ借金の総額はどうする事も出来ない程に膨れ上がり
マイナスの財産だけを残して、そして行方を眩ませた
水商売の母親が客の男と駆け落ちをしたのは
それとほぼ同時期だった
俺を置いて
俺にすべてを擦りつけて
“親”だったはずの二人は、言葉通り泡のように消えたんだ
気付けば俺は情けない程グチャグチャに泣いて
見ず知らずの人に全て話してしまった
「そうか、」
『辛かったな』とか
『可哀想に』とか
そんな風に同情されていたらまた俺はこの人に噛み付いていたかも知れない
「簡単な問題だ」
「は...?」
「そいつ等に追われなければ
お前が死ぬ理由が無くなる、って事だろ?」
借金が無くなる...?
何言ってんだ、そんな事、
「数日でいい 時間をくれないか?
その間君は俺の所に居ればいい」
高校へは進学せずに
中学を卒業してからラインの製造工場で働き始めた
油にまみれながら汚い作業着を着て
エアコンの効かない狭い工場内で
首にタオルを巻きながら必死で働いた
取り立てのせいでその会社も辞めざるを得なくなって
中卒の俺が働ける場所なんてそうそうなくて
コンビニのおにぎり1個買うのにも躊躇した
アパートの家賃と電気水道
生きる為のライフラインを止めまいとする事に必死だった
誰の手も借りず、たった一人で
その、俺が
「おいで」
見ず知らずのこの人が差し出した手を
気が付けばギュッと握り返していた