第4章 嘘つきは恋人の始まり
『狭いとこやけどな』
小さなバーの二階が茂子さんの住まいだった
昔は駆け込み寺のように、若い男の子が荷物の入ったバッグ一つ抱えて雇ってくれと直談判しに来たりもしたそうだ
『アンタ、名前は?』
『……智』
『そんなら“サト”やな
ウチはシゲコ。ホンマはシゲルやねんけどな』
温かい紅茶を出してくれて
こうなった経緯も、家に帰りたくない理由も
亡くなった父親の後輩の事が好きだという事も
今の自分の姿をその人には見せられないという想いも
茂子さんは全部全部聞いてくれた
『気持ちはわかるけどな、自暴自棄になったらアカンよ
この店には男しか好きになれへん子達が集まってくる
恋愛は自由やけど安売りしたらアカンていつもゆうてるんよ
サト
初めては好きな人の為に大事に取っておきや?
ウチの渾身のバックドロップを無駄にせんといてよ』
店には出せないけど、此処に身を置く代わりに開店前と閉店後の手伝いをしてくれたら助かると言ってくれた
その日から翔さんが迎えに来るまでの約2ヶ月間、智さんは茂子さんの経営するボーイズバーに住み込む事になったんだそうだ