第4章 嘘つきは恋人の始まり
「…許せない」
太腿の上に置いた手のひらをギュッと握りしめた
きっと、凄く怖かっただろう
智さんのその時の気持ちを思えば
無意識に身体がワナワナと震えた
「優しい子やね、カズくんは。
良かったわ、こんな子がサトの弟になってくれて…」
「それで、智さんは…」
「結論から言えば、何もされなかったよ
救世主が現れたからね」
ニコッと笑って茂子ママを見つめる
あ…助けてくれた、って、もしかして…
「ママチャリでたまたま通りかかったんよ
あの辺は治安が悪いからはよ通り過ぎよと思っててんな
そしたらトイレの方から争うような声が聞こえて
まさかと思て、」
「あの時のママの勇ましさったら半端なかったよ
カッコよかった」
『おんどれ何晒しとんじゃぁぁあ!!!』
男にバックドロップをキメて
倒れた所に馬乗りになり、後ろ手を絞め上げた茂子ママのそれは神業だったそうだ
『今から警察呼ぶからアンタは家に帰りぃ。
まだ未成年やろ? 補導されんうちに、はよ』
恐怖心で声も出ない智さんは、ただ首を横に振った
『しゃあないな』
完全に失神している男のズボンとパンツを引きずり下ろし、変質者がいると警察に電話をかけた後
智さんの頭をポンポンと撫でて、自分の住むアパートへと連れ帰ってくれた