第3章 約束
俺はなんという罪を犯してしまったのか
常識とか倫理とか
そんなものに縛られて
言ってやれば良かった
もっと早くにそうするべきだったんだ
『……愛してるよ、お前の事は』
『……嘘だね』
『智、』
『嘘だ』
『嘘じゃない…! ちゃんと…』
『だったら、』
“僕を抱いてよ”
挑発なのか、SOSなのか
真っ直ぐに俺を見つめて
『…シャワー、借りるね…』
智が浴室に入ってからも
俺は暫くそこから動く事が出来なかった
ただ、静かな脱衣所に摺りガラス一枚隔てた向こう側のシャワーの音だけが鮮明に聞こえて
『………潤さん、俺… どうするのが正解なんですかね…』
産まれたその瞬間からずっとずっと見てきた
ミルクを与えた事も
オムツを換えてやった事も
一緒に風呂に入った事だって何度もあった
可愛くて
愛しくて
智の為ならなんだってしてやりたかった
なのに
智の気持ちを分かっていながら答えてやらなかったのは俺のズルさだ
もしもあの時、ちゃんと答えてやれてたら
もしもあの時、“愛してる”と言えていたら
アイツの心と身体はこんなにも傷付かずに済んでいたのかもしれない